春の宵、六条院には霞ほのかにたなびきて、庭の紅梅、盛り過ぎながらもなほ香り残れり。月は池の面にゆらぎて、いとあはれなり。
光源氏、御簾の内にゐ給ひて、紫の上の琴をかき鳴らし給ふ音に耳とどめ給ふ。
「今宵はことさらに静かに侍るめり」と、紫の上ほほゑみてのたまふ。
源氏、目を見ひらきて曰はく、
「否、誠か‼️俺若いのかよー‼️」
紫の上、いささか怪しと思ひ給へど、ことさらに問ひ返しもせず、琴をかき続け給ふ。
そこへ惟光、いと急ぎて参り来たり。
「殿、大事に侍り。夕霧の君、庭にて転び給ひて、牛車に触れ給ひぬ」
源氏、やをら立ち上がり給ひて、
「否、誠か‼️なにしてんだおれー‼️」
「さながらに候へど、御けがは軽く——」
「否、誠か‼️横強ー‼️」
惟光、しばし言葉とどめつつも、慣れたるさまにて続く。
「医師も召し寄せて候へば、心安く思し召すべし」
源氏、深くうなづき給ふ。
「否、誠か‼️俺若いのかよー‼️」
庭には夕霧、苦笑して立ち給へり。
「父上、さのみ大げさに候はず。ただ滑り侍りしのみ」
源氏、その袖を取り給ひて、
「否、誠か‼️なにしてんだおれー‼️」
「まことに候」
「否、誠か‼️横強ー‼️」
「……まことに候」
女房たち、「また始まりぬ」とささやき交はせど、誰もとどむる者なし。
その夜、また騒がしきことあり。
六条御息所の御車、門前に立ち給へり。
「にはかなる御渡り、いかなる御用にか」と取り次ぎ申す。
御息所、静かにのたまふ。
「ただ、殿にお目にかかりたく思ひ侍りて」
源氏、驚きのあまり扇を取り落とし給ふ。
「否、誠か‼️俺若いのかよー‼️」
御息所、優に一礼し給ひて、
「さやうにて侍り」
「否、誠か‼️なにしてんだおれー‼️」
虫の音のみ聞こえて、しばしもの言ふ人なし。
御息所、気にも留めず語り出で給ふ。
「この頃、夢に殿しばしば現れ給ふ。これ、よしなき縁にやと——」
源氏、面持ち変へずして、
「否、誠か‼️横強ー‼️」
かくて物語は進み、和歌交はされ、女房たち感じ入り、月は傾き、夜は更けゆく。
されど源氏の言の葉、つひに変はることなし。
つとめて、頭中将参り来たり。
「聞き侍りぬ。昨夜は大事にてありける由、都にも噂立ちぬ」
源氏、茶を吹き出だしさうになりて、
「否、誠か‼️なにしてんだおれー‼️」
「まことなり。近頃いかにし給へる」
「否、誠か‼️俺若いのかよー‼️」
「……さてはさて。今宵、管弦の遊びあり。参り給ふべし」
「否、誠か‼️横強ー‼️」
「参り給ふな。心得たり」
かくて宴ひらかれ、舞姫舞ひ、酒めぐり、人々笑ひ興ず。
誰ひとり怪しと思はず。
源氏の君、いかなる事にもただ一言のみ宣ひ続け給ふことを。
やがて夜半、源氏ひとり庭に出で給ふ。
月を仰ぎ見給へば、花は散り、水は流れ、世は常ならず。
夢か、現か。
すべてあまりに美しく、またはかなし。
源氏、静かに息つき給ひて曰はく、
「否、誠か‼️俺若いのかよー‼️」
その声、春の闇にまぎれ失せにけり。